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『淵に立つ』の感想と紹介・ネタバレあり

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監督:深田晃司
脚本:深田晃司
出演者:浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、他
配給:エレファントハウス
公開:2016年10月8日

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ネタバレあり

簡単なあらすじ

町工場を営む鈴岡利雄妻の章江娘の蛍を中心とした物語。

利雄のもとに、彼の古い友人であり殺人の罪で服役していた男、八坂草太郎が訪ねてくる。利雄は職場と自宅の一室を八坂に与え、次第に八坂は鈴岡一家に馴染んでいく。しかし、彼は大きな闇を抱えていた…。

こんにちは、鬼若葉です。最近はFF14に掛かりきりでブログを更新していませんでしたが、そろそろ映画の感想を垂れ流したくなってきたので、ちまちま更新していきたいと思います。応援していただけると幸いです。

さて、久々の一発目は『淵に立つ』という映画。この映画は深田晃司監督の作品であり、第69回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の審査員賞を受賞しました

鑑賞した感想を一言で言うと「人間の闇と孤独を、恐ろしいほど引き出した傑作」です。見る人によってかなり解釈が異なる映画だと思います。共通して思うことは、「なんだか怖い」だったり「後味が悪い」といった感想ではないでしょうか。

悪いところでもあり魅力でもあるのですが、『淵に立つ』の物語は不明瞭な部分が多いです。視聴者自身が、あれこれと考えなければいけない作りになっています。

しかし、丁寧に作り込まれた演出と演技がヒントになっており、登場人物の心理状態や、物語が考察しがいのあるものになっています(たとえば赤と白を使った色による演出が印象的)。複数人で観に行って意見交換をしたり、繰り返し観てみることで新たな発見をすることができるでしょう

さっそく私の印象に残った場面と解釈を紹介していくのですが、当然のように間違った解釈が出てくると思いますので、その点はご了承ください。

八坂草太郎という人物について

物語のキーパーソンである八坂という男は、深い闇を抱えており、同時に人間らしい優しさも持っているのだと思います。得体の知れない人物である八坂を作り上げた、深田晃司監督と浅野忠信さんに感服しました

糊のきいたワイシャツにスラックス、おまけに丁寧な敬語で不気味なほど礼儀正しい男。彼の一挙手一投足から、刑務所の生活がどれだけ長く厳しかったのかがわかります。こういった細かな演出と演技が丁寧で好印象でした。

特に、彼が凶行に及ぶ際に出てくる赤色の演出。シャツ、トラック、蛍のドレス。劇中では不吉な色として使われている鮮烈な赤は、強く印象に残りました。赤色を使おうというアイディアは、浅野忠信さんが提案し、深田晃司監督が広く取り入れたものだそうです。

八坂の話に戻ります。彼は、相手が裏切らなければ害のない人物なのではないでしょうか。しかし、八坂は独善的であり、融通の聞かない人間なので次第に周囲とすれ違っていく。そのズレが極限まで達すると、殺人もいとわない狂人が姿を表すのでしょう。

周りに溶け込むことができない孤独な男です。設定と場所が違っていれば『孤独のグルメ』でも始まりそうですが、劇中の雰囲気は緊張感であふれており、これから何が起こるかわからない怖さがありました。八坂草太郎というキャラクターは本当によくできています

鈴岡の家庭について

『淵に立つ』の物語で軸になっているのは、鈴岡の家庭です。

物語の冒頭で、夫婦の関係が冷え切っていることがわかります。利雄はほとんど章江の話を聞いておらず、蛍が学校に行くときは仕事の手を止めて「いってらっしゃい」と挨拶するのですが、妻に対しては無反応。食卓でも対面ではなく少し離れた位置に座っています。娘の蛍が多少の潤滑油になっていますが、孤独と寂しさが支配している家庭です。

一人ひとり紐解いていきましょう。自分なりの解釈とわからなかった部分をまとめていきます。

まずは夫である利雄。彼は八坂の殺人について知っており、なおかつ共犯関係だったそうです。件の殺人事件について、劇中では詳しい内容が説明される訳ではありませんが、八坂との関係は状況から察することができます。

八坂の「俺が怖いか?」というセリフ通り、利雄は恐れていたのでしょう。共犯関係をバラされるかもしれないという恐怖。罰を逃れた負い目からくる恐怖。そういった恐怖に支配されている人物なのではないでしょうか。

そしていざ、娘に危害を加えられるという罰が与えられてから数年後。彼は、どこか安堵したような表情になっていしました(八坂が蛍に危害を加えたかは明らかになっていない)。

利雄についてわからなかった所は、なぜ八坂を探していたのかという点です。劇中では「あのとき何があったのか知りたい」と言っていましたが、それだけではないような気がします…なんとなくですが…。

続いて妻である章江。彼女はプロテスタントであり普通の主婦です。八坂と生活を共にするうちに、彼に惹かれていってしまう章江のですが、蛍の事件をきっかけに八坂の存在がトラウマになってしまいます。

神を信じていた章江は食卓で祈りを捧げたり、教会で礼拝をしたり、敬虔なプロテスタントのようでした。しかし、蛍の事件以降では祈りを捧げる場面は全くありませんし、終盤では禁忌(一概には言えないそうです)であるはずの自殺を試みます。

蛍の事件は、かなりショッキングな出来事ではありましたが、おそらく彼女は心の底から信仰していたわけではないのでしょう。八坂は、章江のことを猫型の信仰と言いました。神に首根っこをくわえられて、何も考えず漠然とした信仰をしていたのでしょう。神に見放されれば、置いていかれるだけの信仰だったのです。

宗教関係の話をしていると以前、感想を書いた『沈黙-サイレンス-』を思い出します。信仰ってほんと難しい…。

印象的なシーンがふたつあります。八坂が罪を章江に告白する場面と、章江が橋から飛び降りようとしている場面です。このとき章江は、深淵を覗き込んでしまったのではないでしょうか。

哲学者のニーチェはこんな言葉を残しています「お前が深淵をのぞく時、深淵もまたお前を覗いているのだ」

終盤、章江も八坂と同じように危害を加える存在になってしまいました。八坂に最も影響を受けた人物は章江でしょう。

章江についてわからなかった所は、夢の中でベンチに座っている章江のシーン。章江の隣に腰掛ける蛍は、一体どのような表情をしていたのでしょうか…。

最後に蛍。この子は本当に可哀想です。彼女は何も知らずに被害を被っただけの存在であり、両親に罰として扱われ、母親には殺されそうになってしまいます。彼女の生死は不明ですが、彼女自身は生きようとしていたのではないでしょうか。

川に落ちた蛍と章江を助けに行った利雄は、水中で必死に泳いでいく蛍を見ます。蛍は、体に重い障害を負っているので泳げるはずがないのです。これは利雄の都合のいい幻覚なのか、生きようと思う蛍の姿がそう見えたのか。私は後者だと思っています。

希望がない解釈をすると章江も利雄も、蛍の思っていることを理解せずに、ただ幻を見ていただけという解釈もできますけどね…。

山上孝司について

私にとってはこの人物が一番謎です。何を考えていたのかよくわからない。

単なる好青年とも思えません。八坂の息子であり、彼を連想させるような真っ赤なリュックを背負っています。八坂の息子というだけで特徴的な赤を使っていただけなのか、それとも孝司も何か罪を犯しているのか(たとえば自身の母親を殺していたり…)。

気になったのは、四人で川の字に横たわっている場面。ピクリとも動いていないのです。もしかして死んじゃった?母親を殺した罰?とか深読みしてみたりしたのですが正直わかりません。

ちなみに、この場面は繰り返しになっており序盤にも酷似している構図があります。深田晃司監督は十二分に構想を練って『淵に立つ』を作っていたのでしょう。

まとめ

『淵に立つ』は素晴らしい演出と演技で、家族の関係や人間の闇、宗教観などを描いた見応えのある映画でした。最高に後味の悪い映画ですが、随所に散りばめられたヒントを元にさまざまな解釈ができる映画です。

浅野忠信さんの演技は必見です本当に怖い。演出と相まって、何をしでかすか分からない怖さがありました。コーエン兄弟の映画に出てくるサイコパスもヤバイ奴らですけど、それとはまた違うサイコ感がありました。

私自身、まだまだ『淵に立つ』を理解できていないと思っているので、また改めて観てみたいと思います。

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